あと1日あるけど。
昭和の最後の日は。
まだ冬休みで。
片道1時間ほどで行ける国生みの島で「別れのデート」をしていた。
どんよりとした天気で。
けれど時々陽も射したりして。
冬の、海沿いの。
誰もいない灰色の道を当てもなく歩いて。
その間じゅう、会話は途切れなかったのに。
もう何を話していたのか一つも憶えていない。
帰り際。
フェリー乗り場の近くで、弱い雨が降り始めた。
街に戻り。
上りの電車を待っている時に。
駅のホームから見える電光掲示板に「昭和天皇崩御」の文字が流れた。
周囲が一斉にざわつくなか。
二度、三度と、そのニュースは繰り返し続けた。
「じゃあ、今日で昭和、終わりなんかな」
僕のことも、掲示板も見ずに
「たぶん」
と、彼女が言った。
まだ。
小雨は続いていた。
まだ。
帰りの電車は来なかった。
まだ。
オレンジの電飾は繰り返し明滅していた。
まだ。
ポケットで手を繋いでいた。
まだ。
彼女の事が好きだった
もう。
30年も昔の。
どこにでもある。
たわいも無い夜の話。