What’s up?

日々がたとえ繰り返しだとしても、僕はそれを愛しているんだ。

ラチエン通りのブラザー

「一番好きな本は?」と訊かれると答えに詰まるけれど、「一番好きな作家は?」と訊かれれば、僕は即答できる。
開高健だ。
とは言え、僕は読んだ本の冊数もそんなに多くないし、読んだ作家の人数もきっとたいしたことはない。(なのでその中の一番と言ったところで、年間何百冊も読んでいるような人からは鼻であしらわれそうだけど。)
けれどそれも、殆ど開高健のせいで、とにかく、彼の本がどれもこれも素晴らしすぎるのだ。

ここ6年間はすっかり外界から遠離っているけれど、以前はよくパートナーと本屋へ出かけた。そこで、平積みされている話題の新刊なんかを手に取って、冒頭の数ページを読む。
程なく閉じて、元あった場所へ戻す。
「これから、すっごく盛り上がるのかもしれない、面白くなるのかもしれない。だけど、そんな一か八かの賭けに出るより、このまま家に帰って開高を読もう。」
書店を出る前に、未所持の彼の本が置いてないかだけはしっかりチェックして。

という様なことを、もうかれこれ何年も続けていた。
かと言って、家にある彼の本だけをずっと読み返しているというわけではなく、開高の古今東西の知識が凝縮された、濃密で深遠な文章の中から「読みたい本」は次々に生まれてくるのだ。

「世界は人間なしに始まったし、人間なしに終わるだろう」という名句を知った『悲しき熱帯』レヴィ・ストロウス、一度目は頷き、二度目には首を振った『意志と表象としての世界』ショーペンハウエル、『月と六ペンス』を皮切りに何冊も読む羽目になってしまったサマセットモーム、タイトルに引きつつ読み出したら止まらなくなった『ゴリオ爺さん』はバルザック、他にも、読みたいと思いつつも二の足を踏んでいるハイデガー、右に同じくラブレー、ブリア・サヴァラン…

などなど。
上記は『オーパ!』という、開高がブラジル・アマゾンでの釣りをメインとした旅行記がきっかけになって読んだ(もしくは読みたい)本の一例なんだけれど、同じ様なことが、彼の至る著書、至るページから大発生して、結果、一か八かの賭けよりもきっと、良書に巡り合えてきたと思っている。

ところで、開高健の数ある名著の中で、間違いなく一番読み返しているのがこの『オーパ!』だ。
僕は釣りをしないし、殆ど興味もないけれど、この本の面白さはそんなところにはない。

 

オーパ! (集英社文庫 122-A)

オーパ! (集英社文庫 122-A)

 

 

この記事を書くにあたって「さらっと、搔い摘んで」目を通すつもりだった本書を、結局ガッツリ、半日以上かけて、一言一句漏らさずに味わった。

ちなみに、本のベストワンを選ぶのに迷う相手は、同じく開高健著『輝ける闇』、さらにその双璧をなす『夏の闇』。

 

輝ける闇 (新潮文庫)

輝ける闇 (新潮文庫)

 
夏の闇 (新潮文庫)

夏の闇 (新潮文庫)

 

 

三冊三様、どれをとっても、とても人間の仕業とは思えない不朽不滅の文学であり、圧倒的洞察と表現のルポルタージュ。