前回の記事からそんなに間を空けないつもりだったのに、書いては消し読み返しては泣きすることほぼ1ヶ月。
程度の差こそあれ、どの作品もこんなにフザケているのに、彼女の物語は何故こんなにも胸を打つのか。
- 作者: 明智抄
- メディア: コミック
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『サンプル・キティ』明智抄
1巻 あらすじ
夫と娘の3人で平和な毎日を送っていた小夜子。しかし娘の頭上に落としそうになったヤカンが粉々になるという不思議な事件を体験。その夜、隣の二宮くん(割とタイプ)が何者かに刺される夢をみて…平穏な日常は少しずつ狂気を帯び始めた。鬼才アケチくんのSFホームドラマ!(コミックス「作品かいせつ」より)
主婦とSF
「年上の女(ひと)はきらいですか 人妻はやですか 好きでいるだけならいいですか」
というモノローグで始まる導入からいったいどんな話なのか見当もつかず(さり気ない伏線はある)読んでいると、すぐさま不可思議な事件が起こる。
けれど主人公は「ヤカンが粉々になった」現象よりも「娘に怪我はないか心配」の方が重要なのでヤカンの壊れ方については気にも留めない。
そのまま読者には”奇妙なカンジ”を残して主人公たちは「日常」を続けて行くんだけど、読んでる方の頭の中では「なんで?」が渦巻いているからそこからの展開すべてに注意深くなる。
この”仕掛け”がまず見事。
それが働いている事でエピソードの時間軸や登場人物の関係性も難なく追えるし”奇妙なカンジ”に少しずつ実体を与える事で解説にある変わった取り合わせの「SFホームドラマ」なる独自の世界が構築されていく。
うんうん奥さんそれで?
『サンプル・キティ』に限らず明智抄が作り上げる世界では「日常と非日常の交錯」が独特の切り口と手腕で描かれるんだけれど。
ここではまず「みのもんた」。
主婦としてのキャパ(?)を超えた次元の問題の相談相手(空想)として登場させられて、終始いい加減な相槌を打っている。
そして極めつけはラスト近くの主人公のセリフ。
これはゼヒ各人で味わって頂きたい。
2〜4巻 あらすじ
福島和子は勉強が趣味の高校生。和子は黒い髪と瞳の美しい少女で、父親は金髪の外国人だ。しかし周りの人々の目や写真には二人はカバそっくりの日本人親子に写る。この現実にとまどう和子だったが、ある日クラスメートの沖本香苗にはちゃんとハーフの美少女に見えている事を知り…(コミックス2巻「作品かいせつ」より)
郭公な私たち
「全4巻」で大きくひとつの物語なんだけど『サンプル・キティ』の1巻はそれだけで完結しているストーリーで、2〜4巻が『郭公な私たち サンプル・キティPART2』という扱いになっている。
簡単に説明すると。
1巻の主な登場人物が沖本小夜子と旦那と娘の香苗とお隣の二宮くんとその他で、2巻からは福島和子と沖本香苗とその他、となる。
要するにPART2は沖本小夜子の娘世代の話、になるんだけど、どちらかと言うとこっちがメインで1巻が「序章」なイメージ。
そして『郭公な私たち』は何度読み返しても「ここを変えたい、ああ、ここも変えたい」といつも思ってしまう。
構成や展開が悪いとかではなく(寧ろカンペキ)、軟弱な僕には幾つかのエピソードは悲しすぎるから。
そこまでしなくても、そこまでさせなくても、と思いながら何度も読む。
それでも。
人間の持つ醜い面を掘り下げる事に対して自分にも分身にも容赦のない代わり、人間の持つ優しさや温かさを描く事も決して忘れない。
最後に。
『サンプル・キティ』のレビュー記事を見つけたのでご紹介。
「動機は執着、愛で解決」は名文句。
*記事内に分かりやすく書かれていますがネタバレが気になる方はご注意を。
本編と同じくらい読んでほしい
4巻の巻末に収録されている超短編の『図説オカルト仕事場辞典 猫がいる』と6ページのイラスト付きエッセイ『鼻の追憶』。
- 作者: 明智抄
- 出版社/メーカー: 白泉社
- 発売日: 1996/01
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両方とも世界中の教科書に載せればいいのに。